菅田の庭先にて

菅田の庭先にて(山口県徳山市須々万奥20)  2023/12 四切
展覧会で拙画を観られた方から60年前の生家を描いて欲しいという依頼があった。山口県の山中にポツンと建つ茅葺きの一軒家で、今は跡形もなく荒れ放題の山になっているという。残念なことに生家を撮した写真は1枚もない。その方が思い出しながら全体を描かれた鉛筆の線画が唯一の資料である。初めて描かれた絵なので俯瞰図のような構図であるが、忘れない内に残しておこうと一生懸命描かれた強い望郷の念が伝わってくる。その線画に着彩することを頼まれたのだが、どうしても塗り絵のようになってしまうと思った。そこで、当時の写真を参考にして私のイメージで一枚描かせてもらうことを提案した。すぐに親戚中に頼まれて古い写真が10数枚集まった。被写体は全て家族、家屋全体や風景を撮した写真はなかった。赤茶けて不鮮明な白黒写真だが、貧しくても温かい絆で結ばれた家族の営みがうかがい知れた。現代のモノに溢れる豊かさとは違った本当の豊かさがそこにあったように思えた。喜んでもらった作なので題名は依頼者にお願いした。(12/22コメントを書き換えた。)


トップページ 風景 >管田の庭先にて  ←前の絵へ 次の絵へ